飲食店の順番待ちは、業態によってまったく別の問題になります。平日の昼に45分だけ行列が集中するお店と、休日の夕方に2時間並ぶお店では、必要なものが違います。それなのに「順番待ちシステムを入れる」という話は、たいてい機能一覧の比較から始まります。
この記事は、飲食店が自店のピークの形から順番待ちの運用を決めるための手順書です。方式そのものを一通り見比べたい方は順番待ちシステムとはを、いま紙の整理券を配っている方は紙の整理券はやめなくていいを先にご覧ください。
飲食店の順番待ちの実情
順番待ちの設計に使える数字は、自店の記録にしかありません。 日本フードサービス協会は「外食産業市場動向調査」を月次で公開しており、新規店も含めた全店データを業界全体と業態別に集計しています(日本フードサービス協会「市場動向調査」)。ただしこれは月単位の集計で、何曜日の何時に行列ができるかまでは分かりません。業界全体の背景として押さえるものであって、設計の材料にはなりません。
材料になるのは、自店で1〜2週間つけた時間帯別の記録です。そこから見えてくる待ちの形は、おおよそ3つに分かれます。
| ピークの形 | 起きやすい場面 | 効く手 |
|---|---|---|
| 短時間に集中する | 平日昼、オフィス街、駅前 | 回転を止めないこと。受付と消し込みの手間を減らす |
| 長い時間続く | 休日の夕方、ファミリー層の多い立地 | 待っている間、店の前に留めないこと |
| 読めない波が来る | 観光地、催事、テレビ露出の直後 | 店の外から番号を取れる状態にしておくこと |
そして、どの形であっても向き合うことになる前提があります。受付に人を割く余裕があるとは限らないことです。
帝国データバンクの調査では、2026年7月時点で企業の51.3%が正社員不足と回答し、4年連続で5割を超えました。同じ調査では、非正社員について「飲食店」の改善が続いているとされています(帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」2026年8月17日公表)。非正社員の確保に限れば風向きは変わりつつある、というのが現在地です。
そのうえで、自店が受付専任を置ける状態にないのであれば、仕組みの選び方は変わります。人を置ける前提で選んだ仕組みは、いちばん忙しい日に最初に崩れます。 置けるかどうかを先に確かめてから、機能を見てください。
ピークの形から決める4つのこと
比較表を作る前に、この4つを決めてください。ここが決まっていると、必要な仕組みを絞り込みやすくなります。
1. 呼び出してから何分お待ちするか
店の外で待てるようにすると、呼んでも来られない方が出ます。matoca の実測では、順番待ちのキャンセル率は無断のものを含めて7.5%です。おおよそ13組に1組がキャンセルになる、という水準で猶予を考えることになります。
決めるのは2つです。何分待つかと、戻られたときにどこへ入れるか。後者を決めずに始めると、現場が毎回その場で判断することになり、お客様ごとに扱いが変わります。保留にした方を最後尾に回すのか、次の次にお入れするのか。紙に書いて受付のそばに貼っておけば足ります。
ピークが短時間に集中するお店ほど、猶予は短めから始めてください。猶予の間はその席を押さえたままになるため、ピークが短いお店では、猶予の長さがそのまま案内できる組数に響きます。
2. 受付でうかがう項目
飲食店では、人数と席のご希望(テーブルかカウンターか)まででたいてい足ります。ここを増やすほど、受付1件あたりの時間が延びます。
氏名・電話番号・メールアドレスのように特定の個人を識別できる情報を取ると、個人情報保護法上の個人情報として扱う義務が生じます(個人情報保護委員会「法令・ガイドライン等」)。同委員会は中小企業向けに、自己点検チェックリストと個人データ取扱要領の例、委託先管理に関する着眼点を公開しています。取ると決めたなら、先にこれらに目を通しておく値打ちがあります。
案内に使わない項目は取らない。 これがいちばん軽い運用です。
3. 店の外から番号を取れるようにするか
読めない波が来る立地では効きます。ただし、規模は見込みすぎないでください。matoca 全体で見ると、全発券のうち店の外から取られたものは8%です。
そして、席数が増えるわけではありません。外から取れるようにして変わるのは、番号を取る場所と、店頭に人が滞留する見え方です。行列が短く見えても、席が空くまでの時間は同じです。ここを混同したまま導入すると、期待外れという評価になります。
4. 紙の整理券を残すか
飲食店で判断が分かれるのは、待ち合いスペースがあるかどうかです。店内に待合席があるお店では紙のままでも困りませんが、店頭に立っていただくしかないお店では、番号を配ったあとの連絡経路が要ります。
紙とデジタルは併用できます。判断材料と移行の段取りは紙の整理券はやめなくていいにまとめてあるので、迷ったらそちらをご覧ください。
運用開始までの流れ
飲食店は同時に2か所を変えると、うまくいかなかったときに原因が分からなくなります。3週間で段を分けます。
第1週:ピークの形を測る。 何時に何組が並び、最長で何分お待ちいただいたか。手書きの正の字で構いません。ここで測った数字が、そのまま猶予と待ち時間の提示の根拠になります。この週は仕組みを一切触りません。
第2週:受付と呼び出しだけを動かす。 店の外からの発券は閉じたままにします。この段で確かめるのは、いちばん混む時間帯にスタッフの手が止まらないかどうか、その1点です。止まるなら受付項目が多すぎます。
第3週:店の外からの発券を開く(3で採用すると決めた場合)。 開かないと決めたお店は、第2週の形のまま続けてください。開く場合は、猶予と保留のルールを先に掲示します。呼んでも来られない方が増えるのはこの段からなので、順序を逆にしないでください。
第4週以降:数字を見る。 見るのは3つで足ります。整理券から通知の連携まで進んだ比率、店の外から取られた比率、保留にした件数。
呼び出し通知で守るルール
順番待ちの通知をスマートフォンに送る場合、送れる内容にルールがあります。ここを知らずに設計すると、あとで作り直しになります。
LINE ミニアプリは LIFF(LINE Front-end Framework)上で動くウェブアプリで、アプリをインストールしなくても利用できます(LINEヤフー「LINEミニアプリとは」)。数分だけ使う整理券と相性がよいのは、この性質によります。認証済ミニアプリで使えるようになる再訪の導線については、順番待ちシステムとはで触れています。
そのうえで、サービスメッセージは利用者の操作に対する確認や応答としてのみ送信できます。許可されているのは、アクションの確認通知・結果通知・リマインダー通知の3種類です。値下げ・ショッピング特典・新商品・割引クーポンといった広告は禁止されており、ひとつのアクションに対して送れるのは5件まで。テンプレートの登録数もチャネルごとに20個までです。許可されていない内容を送るとサービスメッセージ API の利用が一定期間禁止され、繰り返し違反するとミニアプリが削除されることがあります(LINEヤフー「サービス事業主のためのノウハウ」)。
つまり、呼び出しのついでにクーポンを送るという設計は成り立ちません。 販促は LINE 公式アカウント側の役割です。順番待ちの通知と販促は、最初から経路を分けて考えてください。
matocaを使っている飲食店の実例
matoca は飲食系だけで合計1,373店に導入されています。
分かりやすい例が、2026年2月にグランドオープンしたデニーズ新宿西口店・赤坂駅前店です。どちらもビルの2階以上に入る店舗で、新宿西口店はデニーズとして初めての4階への出店、赤坂駅前店はデニーズの店舗の中で面積が最も小さい店舗でした。いずれも店舗の内外に十分な待ち合いスペースを確保することが難しく、混雑する時間帯にお客様が店舗の外やその周辺でお待ちになる状況が見込まれていました。同社の出店企画担当者は、解決には呼び出し機能付きのシステムの導入が必須だったと振り返っています(PR TIMES/株式会社デニーズジャパン)。詳しくは導入事例をご覧ください。
これは、この記事の4番目の判断(紙を残すか)がそのまま出た事例です。待ち合いスペースが取れない店舗では、番号を配ったあとの連絡経路が最初から要件になります。
スタッフの操作は、席へご案内したときに「案内完了」を押すだけです。この1操作が次の方への事前通知の引き金になるので、押し忘れると通知が止まります。研修で伝えることは、実質このひとつです。
飲食店に限らない全体の実測値も並べておきます。
| 指標 | 実測 |
|---|---|
| 整理券から通知の連携まで進む比率 | 18〜21% |
| 全発券のうち店の外から取られたもの | 8% |
| 順番待ちのキャンセル率(無断を含む) | 7.5% |
連携するのは2割、外から取るのは1割弱です。全員がスマートフォンで待つ状態にはなりません。 店頭でお待ちになる方に対応できるよう、口頭での呼び出しと画面表示は最後まで残してください。
裏を返せば、店頭の呼び出しのやり方は変えずに済むということでもあります。いま紙で回っているお店ほど、始めるときの負担は小さくなります。
まとめ
飲食店の順番待ちで先に決めるのは、機能ではなく4つの運用です。呼び出しの猶予と戻られたときの扱い、受付でうかがう項目、店の外からの発券を開くか、紙を残すか。
そのうえで、測る → 受付と呼び出しだけ動かす → 必要なら外からの発券を開く、の順に1段ずつ進めてください。受付に人を置けない日でも回る形になっているか。 判断の軸はここに尽きます。
